山岳事故調査報告に見る事故の態様、場所、時間帯の傾向

雪崩の風圧で飛ばされることも

日常の喧騒を離れて雄大な大自然を満喫できる山登りをする際に、はじめから雪崩や転落などの事故を考えたくないのは誰しも同じです。しかし一方で、自分は経験も技術も備わっているから大丈夫という意識が潜んでいることも否めません。

よほど危険な仕事に従事していない限り、日常生活は危険に晒されているわけではないため、例え身近に緊急事態が発生しても、他人事と考えてしまい、無意識に事態を楽観視してしまうことがあるといいます。これが災害時の心理状態でいうところの「正常化の偏見」です。

緊急事態は時と場所を選ばずに差別なく突然やってきます。自分だけ避けてくれるという保障はどこにもありません。災害では非難行動の一瞬の立ち遅れに潜む心理状態が問題視されています。自分の性格や力量を測り、自分の安全に対する幅を決めておきましょう。他人と一緒ではなく、いざという時はは自分の物差しで判断できる力を養うことが重要です。

事故や災害は「時と場所を選ばず」起こることがほとんどです。しかし、近年の山岳事故調査報告では事故の態様、場所、時間帯などに傾向が見られます。まず、年齢層で多いのは、「中高年」、うち女性の割合が高くなっています。

態様(事故の最終原因)としては、登山(下山)中の道迷い、滑落、転倒、病気、転落などが上位を占めています。次に長期入院や後遺症が残る事故が多くなっており、無傷ではすみません。

事故の発生時刻は日帰りでは午後2時前後にピークを迎え、宿泊では午前9時前後が多くなっています。疲労が蓄積する4分の3行程あたりは、疲労から来る集中力が低下する時間帯でもあります。

また、1日周期の成体リズムを示すサーカディアン・リズムによると早朝4時から6時、午後12時から13時あたりは体温が下がり、眠気がやってきて、集中力が最も低下する時間帯となります。事故が多発時間帯とも関連が見られます。

ほかに事故の背景には、加齢による基礎体力の低下が見え隠れします。また、一般登山では圧倒的に下りでの事故が多く、中程度のやや急な斜面で多発しています。経験豊富な登山者にとって、下りは一見楽な感じがしますが、実際には予想以上に繰り返し脚力に負担がかかります。結果、脚力が衰えて、踏ん張りが利かなくなってしまうのです。

事故は、複数の要因が重なり合って起こります。道に迷い、疲労が蓄積されると、予定変更を余儀なくされ、焦りや心の乱れが生じて、転倒や滑落事故につながります。あるいは、天候が急変し、急いだためにぬかるんだ斜面で足をとられて転倒するなどです。

重大事故につながる前に危険な兆候や心理状態にいち早く気付き、リスクが小さいうちに冷静に対策を練る必要があります。

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